John Coltrane Quartet / Ballads 【USED Vinyl】
¥2,800
残り1点
International shipping available
怒れる若きテナー奏者、と呼ばれた男がいた。
シーツ・オブ・サウンド。音の絨毯。一秒間に何十個の音符を吹き込む。息継ぎの隙もない。批評家は困惑し、客は逃げた。それでも吹き続けた。1961年のヴィレッジ・ヴァンガードでは、聴衆が耳を塞いだという。
その男が1962年、マウスピースを壊した。
正確には、気に入らなくて細工をして、余計に悪くなった。急速調が吹けなくなった。調子を落とさざるを得なかった。本人の弁だ。仕方なく、メロディをそのまま吹いた。
そうしてできたのが、この盤だ。
八曲すべてスタンダード。譜面は楽器店で買ってきたもの。三十分ほど半分リハーサルして、たいてい一発録り。ジーン・リースはライナーにこう書いている——こんな奇妙なレコーディングは見たことがない、と。
だが出来上がったものは、コルトレーンの生涯で最も静かで、最も温かい。
事故が名盤を作ることがある。あるいは、事故などなかったのかもしれない。ただ、この人はずっと歌いたかっただけなのかもしれない。誰にもわからない。
針を落とせば、ため息のようなテナーが鳴る。それだけは確かだ。
──── COFFEE PAIRING ────
WOTE KONGA
エチオピア、ウォテ・コンガ。柑橘と花の香りが、湯を注いだ瞬間に立ち上がる。派手さはない。だが冷めていく過程で、甘さが少しずつ姿を現す。
この盤に必要なのは、強さではない。速さでもない。ゆっくり飲めるものだ。「Say It」の一音目でカップを持ち上げ、「Nancy」が終わる頃に飲み終える。三十分。ちょうどそういう時間の長さで作られている。
03 アルバム紹介 · TXT
『Ballads』は、ジョン・コルトレーンが1962年に吹き込んだバラード集であり、インパルス期を代表する一枚だ。
編成はいわゆる黄金のカルテット。ジョン・コルトレーン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)。プロデュースはボブ・シール、エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダー。
収録は全8曲、すべてスタンダード。「Say It (Over And Over Again)」「You Don't Know What Love Is」「Too Young To Go Steady」「All Or Nothing At All」「I Wish I Knew」「What's New」「It's Easy To Remember」「Nancy (With The Laughing Face)」。録音は1961年12月21日、1962年9月18日、そして中心となる1962年11月13日の三セッションから編まれている。
制作の経緯には逸話がある。当時コルトレーンはマウスピースの不調により急速調が吹けない状態にあった。本人が後年のインタビューで語ったところによれば、細工をしたら余計に悪くなり、調子を落とさざるを得なかったという。結果として、この盤ではメロディがほぼストレートに吹かれている。装飾はなく、アドリブも抑制されている。
ライナーを書いたジーン・リースは、これほど奇妙なレコーディングは見たことがないと記す。「It's Easy To Remember」を除き、カルテットはどの曲も事前に演奏したことがなく、楽器店で買ってきた譜面を持ち寄り、コード進行を書き出し、三十分ほど半分リハーサルして、あとは録るだけ。たいてい一発で決まった、と。
激しさの人として知られたコルトレーンの、最も静かな一枚。その静けさこそが本質だと言い切る聴き手も少なくない。ジャズ・バラードの決定盤として、六十年以上聴き継がれている。
Condition
■ 盤面 (Vinyl) — VG+
Side 1 / Side 2 ともに光沢良好。深いスクラッチは見当たらない。経年相応のヘアライン(細かな薄スレ)がうっすらある程度。レーベル面(abc Impulse! レインボーラベル)も汚れ・書き込みなく良好。
■ ジャケット (Jacket) — VG+
見開き(ゲートフォールド)仕様。
表面:緑基調の印刷・光沢とも良好。角のつぶれは軽微。
裏面:Impulse! の帯状デザイン、印刷鮮明。
背・角:リングウェアは軽微。シームスプリット(継ぎ目の裂け)は現状確認できない。
■ 帯 (Obi) — VG+
オレンジ地の帯付き。破れ・欠けなし。折れも見られない。「74」「インパルス・ベスト・コレクション」「¥2,200」「特典セール実施中!」表記あり。
・コルトレーン発売アルバム一覧インサート付属。
※インサート類には経年のシミ(フォクシング)が広範囲にある。テキストの視認性に問題はない。
※コンディション評価はあくまで主観による。中古品・経年品であることを理解のうえ、写真もあわせて判断のこと。
info
アーティスト:John Coltrane Quartet(ジョン・コルトレーン・クヮルテット)
タイトル:Ballads(バラード)
レーベル:ABC Impulse! / 日本コロムビア株式会社
カタログ番号:YP-8574-AI
マトリクス表記:(AI-358-9)Side 1 / (AI-358-10)Side 2
シリーズ:インパルス・ベスト・コレクション No.74
フォーマット:LP, Album, Reissue / Stereo / 見開きジャケット(Gatefold)
回転数:33 1/3 rpm
発売:1976年11月(℗1976-11 NIPPON COLUMBIA CO., LTD.)
製造:MADE IN JAPAN
定価(当時):¥2,200
録音特性:RIAA
原盤:Impulse! A-32 / AS-32(1963年)
──────────────────────
【トラックリスト / Tracklist】
Side One
1. Say It (Over And Over Again) ………… 4:15
(Frank Loesser, Jimmy McHugh)/ Recorded November 13, 1962
2. You Don't Know What Love Is ………… 5:11
(Don Raye, Gene DePaul)/ Recorded November 13, 1962
3. Too Young To Go Steady ………… 4:20
(Harold Adamson, Jimmy McHugh)/ Recorded November 13, 1962
4. All Or Nothing At All ………… 3:35
(J. Lawrence, A. Altman)/ Recorded November 13, 1962
Side Two
1. I Wish I Knew ………… 4:54
(Harry Warren, Mack Gordon)/ Recorded November 13, 1962
2. What's New ………… 3:43
(Bob Haggart, Johnny Burke)/ Recorded September 18, 1962
3. It's Easy To Remember ………… 2:45
(Lorenz Hart, Richard Rodgers)/ Recorded December 21, 1961
4. Nancy (With The Laughing Face) ………… 3:09
(Jimmy Van Heusen, Phil Silvers)/ Recorded September 18, 1962
──────────────────────
【パーソネル / Personnel】
John Coltrane — tenor saxophone
McCoy Tyner — piano
Jimmy Garrison — bass
Elvin Jones — drums
──────────────────────
【クレジット / Credits】
Producer: BOB THIELE
Engineer: RUDY VAN GELDER
Cover and Liner Photos: JIM MARSHALL
Cover Design: FLYNN/VICEROY
Liner Design: JOE LEBOW
Liner Notes: GENE LEES(英文)/ 佐藤秀樹(日本語解説)
── 英文ライナー(Gene Lees 執筆)
リースは、コルトレーンが自分に貼られた「怒れるテナー奏者の最高峰」というレッテルに当惑していた、という話から書き出す。「僕がホーンを強く吹くから、そう言われるんだろう」とコルトレーン本人は語ったという。
だが実際のコルトレーンは、リースがジャズ界で会った中で最も穏やかで、最も物静かな人間の一人だった。二、三年前まではほとんど内気と言っていいほどだったが、近頃はよく喋り、よく笑い、自信を感じさせるようになった。ステージ上でも変化があった。以前は足を踏ん張り、目を閉じ、音楽をこちらへ真っ直ぐ叩きつけてきた。今は聴き手が自分から近づいて受け取ることを許すようになった。音楽が突き出されるのではなく、自然に出てくる。
リースは自身の不明も率直に書く。バードを最初に聴いたときは馬鹿げていると思った。コルトレーンについても同様に馬鹿げていると思った。その単純さと誠実さへの当惑が、彼の演奏を再検討させた。そして気づいた——シーツ・オブ・サウンドの下にあったのは、例外的な抒情性を持つ音楽だった。
一時期リースは、抒情性はコルトレーンの新しい資質だと考えていた。だが1955年のタッド・ダメロンとの初期作を手に入れて、その考えが誤りだと知る。コルトレーンの全ては、抒情性も含めて、最初からそこにあった。
本人にそれを伝えたとき、コルトレーンはこう答えた。「たぶん両方少しずつだろうね」。しばらく考えてから、「僕の演奏は変わったんだと思う。そう言ってくれたのは君が二人目だ」。「もう一人は誰?」「妻だよ」。
プロデューサーのボブ・シールは、コルトレーンの演奏がもう一段の急速な進化を遂げたと見ており、その一因を別のインパルス作品(A-30『Duke Ellington and John Coltrane』)でのエリントンとの共演に見ている。シールがコルトレーンに一曲の録り直しを頼んだとき、エリントンはこう言ったという。「もう一度やらせるな。自分の模倣になってしまう」。
エリントンの影響かどうかはさておき、コルトレーンの演奏はもう一段の大きな、いや巨大な一歩を踏み出したように見える。より直接的になり、ソロはより引き締まり、短く、構成において規律を持つようになった——それは、リースが彼の音楽に対して抱いていた唯一の留保を解消するものだった。
そこでバラード集が最も理にかなっていた。コルトレーン自身もやりたがっていた。なぜかと問うと「ヴァラエティ」と答えた。ペースの変化という意味だ。そして恐らく、自分が抒情的でもあり得ることを、まだ知らない人々に知らせたかったのだろう。
ドナルド・バードの言葉が引かれる。「何年も演奏してきて、最も難しいことのひとつは、メロディをストレートに、良い音と良いフィーリングで巧く吹くことだ、という結論に達した」。
それこそが、このアルバムでジョンがやっていることだ、とリースは書く。アップテンポの演奏には一組の難しさがある。バラードには別の難しさがある。修復されなかった誤りは、高速のノートの奔流の中よりもバラードの中でこそ目立つ。
ジョンに問題はなかった。
そして続く一節が、この盤の伝説を作った——これは私が立ち会った中で最も奇妙なレコーディング・デイトのひとつだった。「It's Easy to Remember」を除き、カルテットはどの曲も演奏したことがなかった。彼らは楽器店で買ってきた譜面を持って現れた。コルトレーン、マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズは各曲について話し合い、使うコード進行を書き出し、三十分ほど半分リハーサルし、そして録った。たいてい一発で決まった。
例外は「All Or Nothing At All」。コルトレーンの譜面には「Arabic feeling」と書き込まれていた。他の曲よりリズム的に複雑だったため、二度ほど出だしを失敗した。その後は難なくやってのけた。
ジョンはイン・コーラスでは曲をストレートに吹いた——あの美しいフレーズ・エンディングをメロディからの逸脱と数えないのであれば。展開が起きるとき、彼は素早く簡潔に音楽的な主張をした。「これほど引き締まった彼の演奏は聴いたことがない」。
コルトレーンの成長はどうやら妨げられることなく続いている。長く続きますように——リースはそう結ぶ。
──── 日本語解説(佐藤秀樹)
日本盤の解説は、1967年7月17日の突然の死から書き起こされる。インパルス時代のジャケットには彼の顔写真が使われることが多く、その表情の大半は体力の限界を超えるような激しさに満ちている。だがこの『バラード』では珍しく静かな表情を見せている——そのことに、佐藤は安らぎを覚えると書く。
ヴィレッジ・ヴァンガードのライヴ盤で聴き手を驚かせた「Chasin' The Trane」の戦慄的な激しさとは対照的な、静のムード。まるで彼自身の澄み切った心境を見るようだ、と。
制作の背景として、フランク・コフスキーによるインタビューが引かれる。マウスピースが気に入らず細工をしたら余計に悪くなり、急速調ができなくなり、調子を落とさざるを得なかった——というコルトレーン本人の証言だ。J.C.トーマス『コルトレーンの生涯』(武市好古訳/スイングジャーナル社)にも、本LPはシール(プロデューサー)の発案であり、コルトレーンには選曲の発言権がなかったらしい、との記述があることにも触れる。
だが佐藤はそこで反転する。ジャズとは面白いもので、演奏家自身があまり評価しないものが、受け手にとっては最高の場合もある。楽器の不調があったとしても、出来上がった演奏は悪くない。ここでのコルトレーンは極めて控え目な態度と、つつましい愛情に満ちている。それを物足りぬ表現と受け取り本アルバムの欠点とするなら、やや疑問だ、と。
ドナルド・バードの言葉を引きながら、コルトレーンが世に稀なバラードの名手であることを痛感する、と結ぶ。人を感動させる演奏は達者なテクニックからだけ生まれるものではない。その人の最も深い人間性が自然に反映してしまうところに、バラード演奏の良さとむずかしさがある。
動と静。彼が優れた演奏家であると同時に、極めて誠実な精神に満ちた一人の人間であった証拠は、人生の大切なこの二つの面を深く探求し、愛し、自分のものにしていたところに違いない。
福井県公安委員会許可第 521130011322 号
道具商
memento 株式会社

